遺伝毒性試験の種類と目的|エームス試験・小核試験の違い
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どーも、病院薬剤師のひゃくさんです。遺伝毒性試験は、エームス試験、染色体異常試験、小核試験と名前が似ていて、混ざりやすい分野です。ICH S2(R1)ガイドラインと厚生労働省の通知をもとに、「何を見つける試験か」の理屈で整理しました。覚えた内容は、必須問題チャレンジ(無料・登録なし)で確かめられます。
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何を見つける? 遺伝子突然変異、染色体異常、組換えなどの遺伝的な傷害を見つける、in vitroとin vivoの試験です。主にがん原性の予測に使われてきました。
試験の違いは? エームス試験は遺伝子突然変異、染色体異常試験と小核試験は染色体の傷害、コメット試験はDNA鎖切断を見つけます。
標準の組合せは? 細菌の復帰突然変異試験に、オプション1(in vitroのほ乳類細胞+in vivo)かオプション2(in vivoを2種類の組織で)を足します。
遺伝毒性試験は、何を見つける試験?
見つけたいのは、DNAの損傷と、その損傷が固定された遺伝的傷害です。遺伝的傷害には、遺伝子突然変異、より広範な染色体の異常、組換えがあります。
これらを検出する試験で陽性になった物質は、ヒトに対する発がん物質や変異原物質である可能性があります。そのため、遺伝毒性試験は主にがん原性を予測するために用いられてきました。1つの試験では、がん原性に関連するすべての遺伝毒性の機序を検出できないので、複数の試験を組み合わせて行います。
試験ごとに、何を検出する?
ICH S2(R1)の記載をもとに、主な試験を表にしました。名前から「何を見つける試験か」を思い出すときは、右の列を見てください。
| 試験 | in vitro / in vivo | 検出する指標 |
|---|---|---|
| 細菌を用いる復帰突然変異試験(エームス試験) | in vitro(細菌) | 遺伝子突然変異(塩基対置換、フレームシフト) |
| in vitro分裂中期染色体異常試験 | in vitro(ほ乳類細胞) | 染色体の構造異常 |
| in vitro小核試験 | in vitro(ほ乳類細胞) | 染色体の構造異常(数的異常は検出できる可能性がある) |
| マウスリンフォーマTk試験(MLA、L5178Y細胞) | in vitro(ほ乳類細胞) | チミジンキナーゼ(Tk)遺伝子の変異 |
| in vivo小核試験 | in vivo(げっ歯類) | 染色体異常誘発物質(数的異常誘発物質も検出できる可能性がある) |
| in vivo染色体異常試験 | in vivo(げっ歯類) | 染色体の構造異常 |
| コメット試験(単細胞ゲル電気泳動試験) | in vivo | DNA鎖切断 |
標準的な組合せは?
ICH S2(R1)は、標準的な組合せとして2つのオプションを示していて、2つは同等に適切と判断されています。
| オプション1 | オプション2 | |
|---|---|---|
| (i) | 細菌を用いる復帰突然変異試験 | 細菌を用いる復帰突然変異試験 |
| (ii) | 染色体傷害を検出する細胞遺伝学的試験(in vitro分裂中期での染色体異常試験又はin vitro小核試験)、又はマウスリンフォーマTk試験 | 2種類の異なる組織でのin vivo遺伝毒性試験。一般的には、げっ歯類造血細胞を用いる小核試験と、2つ目のin vivo試験(他に適切な方法がない限り、一般的には肝臓のDNA鎖切断を検出する試験) |
| (iii) | in vivo遺伝毒性試験。一般には、げっ歯類造血細胞での小核、又は分裂中期細胞の染色体異常を検出する試験 | (なし) |
覚えるコツは、オプション1が「細菌+in vitroのほ乳類細胞+in vivo」、オプション2が「細菌+in vivoを2種類の組織で」です。どちらでも、陰性の化合物は、通常、遺伝毒性活性を持たないと考えられ、追加試験は必要ないとされています。標準的な組合せで陽性の化合物は、より広範な検討をする必要があります。
オプション2のin vivoの細胞遺伝学的試験は、小核試験が推奨され、染色体異常試験は推奨されません。小核試験は、染色体の損失(異数体の可能性)を直接検出できるためです。
エームス試験で押さえるポイントは?
- 代謝活性化系:代謝活性化系の存在下と非存在下の両方で、すべての試験菌株を試験します。
- 最高用量:溶解性や菌の生育阻害が問題にならない場合は、5000 µg/plate(被験物質が液体なら5 µL/plate)です。
- 陽性のとき:エームス試験で陽性なら、DNAとの反応性があることを示します。そのため、適切なリスク・ベネフィット解析で担保されない限り、in vivoでの変異原性や発がん性を評価する広範囲の追加試験が必要です。
過去問では、どう出る?
厚生労働省が公表している過去問と正答で、遺伝毒性試験が出た問題です(問題文は要点の言い換え)。
| 回・問 | 問われたこと | 答え |
|---|---|---|
| 第110回 問134 | 化学物質のin vitro遺伝毒性試験に関する正しい記述(2つ選ぶ) | 正答は1と5。復帰突然変異試験は、試験菌株の表現型がアミノ酸非要求性に復帰することを利用する方法。不定期DNA合成試験は、損傷したDNAの修復合成を測定する方法 |
| 第111回 問133 | 化学物質の毒性試験に関する正しい記述(2つ選ぶ) | 正答は1と5。「変異原性試験には、動物を用いる試験法はない」は誤りで、げっ歯類を使うin vivo小核試験やコメット試験がある |
くわしい条件
ガイダンスの対象
ICH S2(R1)は、遺伝毒性試験を「種々の機序で遺伝的な傷害を引き起こす物質を検出するために考案されたin vitro及びin vivo試験」と説明しています。染色体の数的変化も、腫瘍の発生に関連していると書かれています。このガイダンスは新規の低分子医薬品が対象で、生物学的製剤には適用されません。
各試験のガイダンスの記載
- エームス試験:妥当性のある遺伝的変化を検出し、げっ歯類及びヒトの遺伝毒性発がん物質の大部分を検出できるとされています。OECDの推奨菌株は、ネズミチフス菌TA98、TA100、TA1535、TA1537(又はTA97、TA97a)、TA102(又は大腸菌WP2uvrAなど)です。
- in vitro分裂中期染色体異常試験:染色分体又は染色体が切断されて無動原体染色体断片が生じる異常などを検出できます。倍数体の出現率も記録して、倍数性の情報を得ます。
- in vitro小核試験:染色体断片による小核に加え、分裂後期の染色体の極への移動異常でも小核ができるため、染色体の数的異常誘発物質も検出できる可能性があります。
- マウスリンフォーマTk試験:変異は、遺伝子突然変異と染色体異常のどちらの機序でも生じます。染色体の損失も検出できます。
- in vivo小核試験:骨髄細胞の小核を有する多染性赤血球、又は末梢血の幼若赤血球で調べます。
- in vivo染色体異常試験:骨髄における分裂中期細胞の染色体異常を分析します。
- コメット試験:第2のin vivo試験として推奨されています。用語集の説明では、DNAの短い断片が核の外側に移動して、彗星の尾のような像になります。
ガイダンスは、オプション2の第2のin vivo試験として、コメット試験とアルカリ溶出試験(DNA鎖切断を検出する試験)を推奨しています。そのほかに、in vivoトランスジェニックマウス突然変異試験、DNA共有結合試験、肝細胞を用いる不定期DNA合成(UDS)試験も使えると書かれています。UDS試験は、用語集で「DNA損傷によって誘発されるS期以外のDNA合成。通常DNA除去修復と関連している」と説明されています。
検出する指標を整理すると、遺伝子突然変異はエームス試験(マウスリンフォーマTk試験は遺伝子突然変異と染色体異常のどちらによる変異も検出)とin vivoのトランスジェニックマウス突然変異試験、染色体の構造異常は染色体異常試験と小核試験、染色体の数的異常は小核試験(数的異常誘発物質を検出できる可能性)、DNA鎖切断はコメット試験とアルカリ溶出試験です。
通知の内容
この組合せは、2012年(平成24年)9月20日付の厚生労働省通知(薬食審査発0920第2号)で示されました。通知には、新ガイダンスの要点として、標準的組合せに2つのオプションを示したこと、in vitro小核試験の利用を認めたこと、第2のin vivo試験としてDNA傷害性を評価できるコメット試験を推奨したことなどが書かれています。従来のS2AガイダンスとS2Bガイダンスは、この通知で廃止されました。
エームス試験のそのほかのポイント
- 1試験でよい場合:結果が明らかに陰性又は陽性で、代謝活性化系の存在下と非存在下ですべての試験菌株を含み、最高用量の選択基準を満たす用量範囲と、適切な陽性・陰性対照を設けて行った場合は、医薬品では1試験で十分と考えられています。OECDのガイドラインとの違いです。
- 実施の対象:細菌に強い毒性を示す化合物(ある種の抗生物質など)でも、エームス試験は実施します。この場合は、in vitroのほ乳類培養細胞を用いる試験も1つ合わせて行います(オプション1を選択)。
- 向かない化合物:ネズミチフス菌ではヒスチジン、大腸菌ではトリプトファンというアミノ酸が混入すると、変異ではないコロニー増加が起きます。そのため、分解しやすいペプチドの試験には適しません。
過去問の解説
第110回 問134(正答は1と5)。選択肢3の「小核試験は、塩基対置換型の点突然変異を検出する方法である」は、正答に入っていません。ICH S2(R1)では、小核は染色体断片や染色体全体が細胞質中に粒子として残ったもので、染色体の構造異常や数的異常を調べる試験とされています。塩基対置換とフレームシフトの突然変異を調べるのはエームス試験です。マウスリンフォーマTk試験はTk遺伝子の変異を調べ、その変異は遺伝子突然変異と染色体異常のどちらの機序でも生じます。in vivoで遺伝子突然変異を調べる試験としては、ガイダンス4.2にトランスジェニックマウス突然変異試験があります。選択肢4の「コメットアッセイは、切断されたDNAの電気泳動における移動度が小さくなることを利用して遺伝毒性を検出する方法である」も、正答に入っていません。用語集では、DNAの短い断片が核の外側に移動して彗星の尾のような像になると説明されています。
第111回 問133(正答は1と5)。選択肢3の「変異原性試験には、培養細胞を用いる試験法はあるが、動物を用いる試験法はない」は、正答に入っていません。変異原性(遺伝毒性)の試験には、げっ歯類を使うin vivo小核試験やコメット試験があります。
問題文と正答は、厚生労働省の「第110回薬剤師国家試験問題及び解答」「第111回薬剤師国家試験問題及び解答」の公表ファイルで確認しました。
よくある質問
エームス試験は何を検出する試験ですか?
細菌を用いる復帰突然変異試験で、遺伝子突然変異を検出します。OECDが推奨する試験菌株のセットは、塩基対置換とフレームシフト突然変異の検出に使われます。代謝活性化系の存在下と非存在下の両方で行います。
小核試験と染色体異常試験は何が違いますか?
どちらも染色体の構造異常の検出に適切とされています。小核は、染色体の断片に加えて、分裂後期に染色体が極へうまく移動できなかった場合にもできるため、小核試験は染色体の数的異常を誘発する物質も検出できる可能性があります。
遺伝毒性試験の標準的な組合せは何ですか?
細菌を用いる復帰突然変異試験に、ほ乳類細胞を用いるin vitroまたはin vivoの試験を組み合わせます。オプション1は、復帰突然変異試験、in vitroの染色体傷害を調べる試験(染色体異常試験か小核試験)又はマウスリンフォーマTk試験、in vivoの染色体傷害を調べる試験の3つです。オプション2は、復帰突然変異試験と、2種類の組織でのin vivo試験の組合せです。
出典・確認日
- ICH S2(R1)「医薬品の遺伝毒性試験及び解釈に関するガイダンス」(平成24年9月20日薬食審査発0920第2号、厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)。通知本文、1.4、2.1、2.2、2.3.2、3.2、3.3、4.1、4.2、5.2.1、7(用語の解説)を参照。PMDAのICH-S2のページ、日本語版のPDF(確認日2026-10-02)
- 厚生労働省「第110回薬剤師国家試験問題及び解答」公表ページ、「第111回薬剤師国家試験問題及び解答」公表ページ(確認日2026-10-02)

